お母さん、だぁいすき。
私の母は73歳、認知症です。症状が出始めてから15年くらい経ちます。
母が58歳、私が高校3年生のころからの付き合いです。母は若年性認知症を患いました。
始まり
15年前のある日、母と二人でプリンを食べていました。すると母が目の前のプリンを見て
「このプリン、誰が食べたの?」といったのです。
「いやいやいや!、お母さんでしょ!!」と言うも、母は断固として認めません。何度説明しても、認めません。しまいには、「変な事言わんでよっ!!」とキレる始末。
これが、「お母さん認知症?」と思った最初のエピソードです。高校3年生の私は、とても怖かったです、母が認知症になるなんて。
だから
「いやいや、大丈夫、たまたま調子が悪かっただけだ。」って、一旦思いました。
この時は、本当に初期だったんで、日常生活には問題ないし、車の運転もできるし料理も、洗濯もでるし、病院に連れていくほどの決定打もなく、
「お母さん、認知症じゃない?」
と、ほかの家族に言うのも怖かったんです。でも半年くらい母を観察すると、やっぱりただの物忘れじゃないって、違和感が徐々に確信に変わっていきました。いわゆる、エピソード記憶がごっそり抜け落ちる感じがあって。
そのあたりで、私の心配と不安は自分だけでは抱えきれなくなり、最初は姉に話してみました。当時、県外に住んでいた姉も、やはり、違和感を感じていたよう。
その後、父に相談、だいぶ後に病院に受診して認知症と診断されました。
最初に「ん?」って思ったあの日から、病院に受診するまで紆余曲折ありました。三年はかかったんじゃないかと思います。
それから
年月をかけて
家事ができなくなり、段取りが悪くなり、トイレに何度も通ったり、トイレから部屋まで迷ったり、服が自分で着れなくなったり、ごはん食べてないって言ったり、「家に帰らなきゃ」と繰り返し家族を困らせたり。
それはそれは大変根気の必要な日々。
父は「老後は母さんと一緒に楽しむつもりだったのに。」と何度も何度も嘆きました。我慢も限界に達し、母に怒鳴る日もありました。
でも、一緒に暮らすことができなくなるその日まで、
散歩に連れ出たり、卓球に、ドライブに、旅行に、カラオケに、本当に本当によく関わりました。
私はというと、
認知症を患いながらもプライドだけはしっかり持っている母にどうしてもイライラ。頻繁に母とぶつかっていました。母はもう忘れているんだろうけど、感情任せに怒ったり、責めたりしました。母の事が好きだと思えない時期がずっと有って、自分の中でもやもやしていました。
母と離れて暮らすようになって
4年前くらいから、自宅生活がだんだん厳しくなってきて、グループホームに入所しました。今も認知症状は徐々に低下しているものの、低空飛行をずっとキープしている感じです。会いに行っても、すぐには娘だって分かってもらえなくて、少し時間が必要。でも認知症と15年も付き合っているので、「娘だって分かってもらいたい」とか「悲しい」とかはないです。私とあっている間、この人と居ると安心できるな~って思ってもらえたらそれで充分。思い出してくれたらラッキーくらいの気持ちです。
2か月に1回のペースで母と外出しているのですが、今日もその日でした。母を助手席に乗せてドライブしました。まあるくなった背中、白髪が増えて真っ白になった頭、いろんな思い出が抜け落ちてしまったお母さん。。
オーディオで懐メロを流しながらのドライブ。
帰り際にマッキーの「どんなときも。」を流してあげるとフンフンと気分よさそうに鼻歌を歌ってくれました。
私が子供のころ、助手席で聞かせてもらっていた曲。
今日は母にどうしても言いたい事があったんです。どうせ忘れちゃうんだから簡単に言えると思っていたのに、言おうとすると急に緊張してしまいました。
それでも、マッキーの歌声に後押しされて言ったこと、それは
「母さん、、育ててくれてありがとう」
母は、
「えーそんな事言ってくれるの?嬉しいわぁ」と、笑って私の顔をちゃんと見てくれました。
なんだかいろんな思いがこみ上げて、ちょっと泣きながら、
「元気なうちにちゃんと伝えてあげれなくてごめんね。」
「お母さんの事、大好きだよ。」
なんと、満面の笑顔になって「わぁ~嬉しいわぁ」と答えてくれました。伝わった手ごたえがありました。忘れちゃうんですけどね。
自分が親の立場になって、
どれだけ子育てが大変か、そして、どれだけ子供が愛おしいか分かるようになりました。
思い返せば、私は母から沢山の愛情を与えてもらいました。沢山抱きしめて沢山心配して、沢山許してくれました。
今、4歳娘と2歳息子が私に毎日言ってくれる事
「かあしゃん、だいちゅき」
この言葉のパワーは偉大です。怒ってても、疲れてても強制リセットされるくらいです。
子どもは恥ずかしげもなく素直に「大好き」と言えるのに、大人になるとなんでこうもハードルが高くなってしまうんでしょうね。
もっともっと早く、お母さんに伝えておけばよかった。
「お母さん、大好き。」